税務調査におけるカルテの提出
»2010年8月31日 (火)
診療所や病院に対して税務調査があり、調査官からカルテの提示を求められた際、医師はどう対応すべきかという問題です。
先ず、医師には患者にかかる情報について守秘義務が課せられており、この点について昭和52年3月16日の衆議院大蔵委員会で厚生省は「税務職員のカルテの閲覧の問題でございますけれども、(中略)、医師が診療録を他人に見せることができますのは、個々の法律にその根拠が明らかである場合、たとえば医療法の二十五条のごときものがございますが、それとか、裁判所の提出命令ないしは裁判官の発付いたします差し押さえ令状というふうなものによって他人に提出し、これを見せることができる、こういうふうに一貫しております」と答弁しています。
しかしながら、税法では税務署の調査官は「納税義務がある者等に質問し、又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査することができる」(所得税法第234条)と規定しています。
カルテが上記「帳簿書類その他の物件」のその他の物件に該当するか否かが争われた事件において、裁判所は「歯科医師の守秘義務に係る診療関係書類とは、具体的には、本件カルテ及び使用中カルテを指すものと思われる。しかし、これらのカルテが、歯科医師である原告の『事業に関する帳簿書類その他の物件』に該当することは明らかであって、本件において、提示された本件カルテ等を税務職員が検査したことは適法である」との判断を示しています。(東京地裁平成1年9月14日)
したがって、カルテの提示を阻むことは、場合によっては税務当局から推計課税を受ける可能性のあることも視野に入れる必要があると考えられます。