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小規模事業者のための退職金制度【第1回】退職金制度がない場合

退職金制度がない中小企業-「払うつもりはある」だけでは足りない理由

「退職金は、いずれ払うつもりでいる」——それが自分自身に対するものであれ、従業員に対するものであれ、たとえ経営者自身がそうは言っていても「払うつもりでいる」ことと「払う準備ができている」ことは、全く別の話です。

制度がなければ、内部留保から払うしかない

退職金制度を利用していない会社では、自分自身がリタイアすると決めたとき、あるいは、従業員が退職することとなったとき、その資金をどこから捻出しなければならないのでしょうか。答えはシンプルで、会社の内部留保、つまり税引き後の利益の蓄積から支払うしかありません。

「内部留保」というのは、すでに法人税等を払い終えた後のお金です。つまり、1,000万円の退職金を内部留保から支払おうとすると、会社はその前段階で、もっと大きな金額を稼ぎ出し、税金を払ったうえでその残りを会社内部にしっかりと貯めておく必要があるというわけです。

法人税等の税率を30%とすると

1,000万円 ÷ (1 − 0.30) = 約1,428万円

となります。つまり、会社は1,000万円の退職金を支払うために、前もって1,428万円の税引き前利益を稼ぎ出す必要があるというわけです。差額の約428万円は、そのまま税金として消えていくことになります。

「退職金として1,000万円支払う」ということは、実は会社は428万円もの追加負担を強いられている——これが、退職金制度を利用せずに退職金を払うことの実際のコストです。しかも、業績が良い年にたまたま利益が出ていれば良いのですが、退職のタイミングと業績の良し悪しは本来一致する話ではありません。利益が出ていない年に退職者が重なれば、資金繰りそのものを圧迫することになります。

制度を使えば、少ない支出で同じ効果が得られる

これに対して、退職金制度を使って計画的に積み立てを行った場合はどうでしょうか。

中退共や企業型確定拠出年金(DC)などの多くの制度では、会社が拠出する掛金は、その支払った年度の損金として全額算入されます。つまり、「税引き後の利益から出す」のではなく、「利益が出る前の段階で経費として落とせる」わけです。これが、内部留保から直接支払う場合との決定的な違いです。

たとえば、1年間に100万円ずつ、10年間かけて合計1,000万円を積み立てたとします。この掛金は毎年全額損金になりますから、実効税率30%で年間30万円、10年間で合計300万円だけ法人税等は軽減されます。つまり、会社が実質的に負担するコストは、1,000万円ではなく、そこから300万円を差し引いた700万円まで圧縮されるというわけです。

さらに、多くの制度には運用益や予定利率による上乗せの仕組みがあります。積み立てた掛金がそのまま眠っているのではなく、時間をかけて増えていきます。この効果も加われば、同じ1,000万円の退職金を用意するために会社が実際に負担する金額は、内部留保から一括で払う場合と比べて、ダブルで少なく済むことになります。

同じ「1,000万円の退職金を出す」という結果を得るために、

  • 内部留保から払う場合 : 実質約1,428万円を稼ぎ出す必要がある
  • 制度を使って計画的に積み立てる場合 : 税負担の軽減と運用益によって実質負担はそれよりずっと小さくなる

この差は、会社の規模が大きくなるほど、また積立期間が長くなるほど、無視できないものになっていきます。

採用・定着という「見えにくい効果」も

コストの話だけでなく、退職金制度には採用・定着面でのメリットもあります。求人票に「退職金制度あり」と書けるかどうかは、求職者にとって大きな判断材料です。同じ待遇の会社が2社あれば、制度のある会社が選ばれやすいのは自然なことですね。

また、制度によっては勤続年数に応じて受取額が増える設計になっているものもあり、これが従業員にとって「長く勤めよう」という動機づけにもなります。採用コストや教育コストを考えれば、定着率が上がることそのものが、会社にとって大きな経済的メリットだと言えます。

まとめ

「退職金は払うつもりでいる」という経営者の方にこそ、一度立ち止まって、その支払い方を見直していただきたいと思います。内部留保から一括で払うのか、それとも制度を使って計画的に、税負担を抑えながら準備するのか—同じゴールに向かうにしても、そのコストは大きく変わってきます。 次回は、こうした積み立てが可能な代表的な制度である中退共・企業型DC・企業型DBなどについて、それぞれの掛金の損金算入の仕組みや導入時の注意点を具体的に見ていきたいと思ます。

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