中小企業の退職金制度~6つの選択肢をザックリ比較すると
「退職金は、いつか準備しないといけない」
そう頭では分かっていても、実際に何から手をつければいいのか分からない――そんな経営者の方は、決して少なくはないはずです。
・自分自身がリタイアするとき
・一緒に会社を支えてきた奥様が役員を退くとき
・長年がんばってくれた従業員が退職するとき
そのどれもが「いずれ来る日」なのに、多くの中小企業でその準備が後回しになっている理由のひとつには、様々ある制度のうち「どれが自分のところに合うのか」が分かりにくくなっているから―というのは確実にあると思います。
今日は、中小企業でよく使われる6つの制度
・小規模企業共済
・iDeCo(個人型確定拠出年金)
・企業型確定拠出年金(DC)
・企業型確定給付年金(DB)
・中退共
・倒産防止共済
を「誰のための制度なのか」という視点で整理してみたいと思います。制度の細かい要件はひとまず横に置いて、まずは全体像をつかんでください。
| ●確定「拠出」と確定「給付」はどう違う? ・確定「拠出」は掛金の拠出だけが確定しているという意味です。将来の受取額は「確定」していません。そこは自己責任なのです。 ・確定「給付」は将来の受取額、つまり給付される額が確定しています。ただし、運用利率は10年国債利回り等に連動しますから、確定「拠出」に比べて低い利率での運用になります。 |
6つの制度は「誰のため」で3つのグループに分かれる
いきなり6つを横並びで比較すると混乱します。しかし、次の3つに分けて考えると頭の整理がつきます。まず押さえていただきたいのは、これらの制度は対象者が違うという点です。
グループ1:経営者本人・役員のための制度
① 小規模企業共済
中小企業の経営者や役員自身が加入できる、いわば「経営者の退職金制度」です。掛金は月1,000円~70,000円の範囲で自由に選べて、全額が「所得控除」の対象になる制度です。
受け取るときも「退職所得」扱いになるため、税負担が軽くなるのが大きな魅力です。
ご自身や家族も役員である場合の退職金の土台として、多くの経営者が利用する制度です。
② iDeCo(個人型確定拠出年金)
本来は個人の私的年金制度ですが、経営者自身も加入できます。掛金は全額「所得控除」、運用益も非課税というメリットがあり、小規模企業共済と並行して活用する経営者も少なくありません。
ただし60歳まで原則掛金を引き出せない点は、資金繰りとのかね合いで意識しておく必要があります。
グループ2:従業員のための制度
③ 企業型確定拠出年金 (DC)
会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用方法を選ぶ制度です。掛金は損金算入でき、「選択制DC」ということにすれば従業員の給与の一部を掛金に回すこともできるため、社会保険料の圧縮効果を期待して導入する会社も増えています。運用結果は従業員の自己責任になる点が特徴です。
④ 企業型確定給付年金 (DB)
将来受け取る給付額があらかじめ決まっている制度です。従業員にとっては将来が見通しやすい安心感がありますが、運用がうまくいかなかった場合の不足分は会社が穴埋めしなければいけない点が特徴です。
運用利率は③の確定拠出年金の方が一般には高いのですが、掛金は③が最大5.5万円であるのに対し、こちらは最大40万円と大きな開きがあります。
⑤ 中退共(中小企業退職金共済)
中小企業向けに国がバックアップする従業員の退職金制度です。掛金は全額損金算入でき、新規加入時には国から掛金の一部助成も受けられます。手続きがシンプルで、初めて従業員の退職金制度を利用する中小企業の入り口としてよく選ばれています。
グループ3:少し性格が違う制度
⑥ 倒産防止共済(経営セーフティ共済)
これは厳密には退職金制度ではありません。取引先の倒産に備える共済制度ですが、掛金が全額損金算入できるうえ、40か月以上納めれば解約時に掛金の全額が戻ってくるという特徴から、実務上は「合法的な利益の繰延べ・簡易的な資金準備手段」として、退職金の原資づくりにからめて語られることが多い制度です。
退職金そのものではなく、退職金を支払うタイミングでの資金繰り対策として理解しておくとよいでしょう。
どう選べばいいのか──判断の軸は2つ
6つを並べてながめるとまだ迷われると思いますが、判断の軸を次の様に考えてみてはいかがでしょうか。
1:誰のための資金か
- 経営者・役員自身 → 小規模企業共済、iDeCo
- 従業員 → 企業型DC、企業型DB、中退共
- 支払うタイミングの資金繰り → 倒産防止共済
2:何を優先したいか
- 税負担を軽くしたい
ほぼすべての制度が該当しますが、効果の大きさや資金の固定度合いが異なります
- 従業員の定着を図りたい
中退共や企業型DC、DBは採用・定着の武器にもなります
- 将来の資金の見通しを重視したい
企業型DBのように給付額が確定する制度が合います
- とにかく始めやすいものから
小規模企業共済や中退共は手続きが比較的シンプルです
まずは「小さく始める」でも大丈夫
多くの会社は、まず経営者自身の小規模企業共済から始め、余力が出てきたら従業員向けに中退共や企業型DC、DBを検討する―という順番で考えてもいいかもしれません。
自社にとって何を優先すべきか-は会社の状況(利益水準、資金繰り、従業員数、今後の採用計画など)によって変わってきます。制度の仕組みを理解した上で、実際にシミュレーションをしながら検討していくことをおすすめします。
