退職金の話をする前に、「いつ辞めるか」を一緒に考えてみませんか
顧問先の社長とお話ししていると、退職金の相談は「いくら準備すればいいか」「小規模企業共済とiDeCoはどちらが得か」といった金額や制度の話から始まることがほとんどです。
しかし、実は退職金を設計するうえで一番大事なのは、金額や制度よりも先に「社長が何歳で、どのようにして役員を退くのか」を決めることかも知れません。
退職金は退職する時点で受け取るものですから、退職時期が変われば、必要な準備期間も、積み立てるべき金額も、選ぶべき制度もすべて変わってきます。
今回は、社長がご自身の引退時期を考えるための材料として、統計データと実際に考えていただきたい論点を整理してみました。
1. 社長は何歳で引退しているのか
帝国データバンクの調査によれば、2025年末時点における全国の社長の平均年齢は60.8歳となり、1990年以降35年連続で最高齢を更新しました。年々社長の高齢化が進んでいる状況です。
一方、実際に社長が交代する際の年齢、つまり「引退時の年齢」に注目すると、交代前(引退)社長の平均年齢は68.5歳となっています。平均年齢が60.8歳、引退年齢が68.5歳ということは、多くの社長が60代のうちに引退を意識しはじめ、実際に交代するのは60代後半から70歳にかけて、というのが全国的な傾向だと言えます。
また、社長交代率(1年間で社長が交代した企業の割合)は2024年から2025年にかけて3.84%にとどまっており、決して高い水準ではありません。つまり、多くの経営者が「そろそろ」と思いながらも、実際にはなかなか代替わりが進んでいないというのが実態の様です。
2. 業種・規模によって引退年齢は大きく異なる
一律に「社長は何歳で辞める」と言い切れない点も重要です。業種別に見ると、傾向にかなりの差があります。
- 不動産業:社長の平均年齢が業種の中で最も高く、2024年時点で62.8歳となっています。同様に製造業や卸売業も高水準です。
- サービス業:サービス業は59.2歳と、その他を除く業種の中で唯一60歳を下回る水準です。IT系など若手経営者の起業が多いことが要因とみられます。
- 建設業:全体の平均を下回る60.5歳程度で推移しています。
また、企業規模(売上高)による違いも顕著です。ある年の調査では、年商500億円以上の企業では社長の50〜60代が8割を超える一方、年商1億円未満の企業では50〜60代が約55%にとどまり、70代が22.6%、80歳以上も5.4%を占めています。規模が小さい会社ほど、後継者が見つからないため、社長が高齢のまま経営を続けているケースが多いということです。これはまさに、私たちが日々ご支援している中小企業・小規模事業者に当てはまりやすい傾向であり、他人事ではありませんね。
3. 「そろそろかな」と感じ始めるのはいつか
こうした統計を踏まえると、多くの経営者が引退を意識し始めるのは60代後半あたりからだと考えられます。実務上の感覚とも一致するところで、体力的な衰えを自覚し始める年代でもあると思われます。
ただし、「意識し始める年齢」と「実際に引退する年齢」の間には、数年から10年近い開きが生じることも珍しくありません。後継者の育成、事業承継の手続き、取引先への説明、金融機関との調整など、実際の引退には相応の準備期間が必要になるためです。逆に言えば、60代に入った時点で一度、引退時期について具体的に考え始めることが望ましいのかも知れません。
4. リタイアを考える理由は何ですか?
引退を考えるきっかけは、社長によってさまざまです。代表的なものとして、次の3つが挙げられます。
- 後継者の有無:子供や親族、あるいは他の役員や従業員の中に継がせたい人材がいるかどうか。後継者候補がいれば、その年齢や準備状況に合わせて引退時期を計画できます。
- 年齢そのもの:当然、「〇歳になったら」という区切りを決めている経営者も多くいます。
- 肉体的な問題:健康上の不安や体力の低下を感じたことがきっかけになるケースも少なくありません。
社長がどの理由に当てはまるかによって、準備すべきスケジュールはまったく違ってきます。後継者がいる場合は数年単位での計画的な承継が可能ですが、健康上の理由が先行する場合は、当然ながらより早い段階での準備が必要になります。
5. リタイア後、どのような人生を送りたいですか?
退職金の話をする前に、ぜひ一度考えていただきたいのがこの点です。引退後も会長として会社に関わり続けたいのか、それとも完全に経営から離れて趣味やご家族との時間を大切にしたいのか。あるいは、別の事業や地域活動に力を注ぎたいという方もいらっしゃいます。
引退後の生活スタイルによって、必要な生活資金の水準や、退職金以外の収入(役員報酬の継続、年金、資産運用など)とのバランスの取り方が変わってきます。ここがあいまいなままだと、退職金の目標額も定まりませんね。
6. 退職金はいくら欲しいか、具体的な金額を思い描いていますか?
退職金の準備には、小規模企業共済、iDeCo、企業型DC、企業型DB、中退共、倒産防止共済、生命保険の活用など、複数の選択肢があります。それぞれ積立期間や税務上の取り扱いが異なるため、「いつまでに、いくら必要か」が定まって初めて、最適な組み合わせが見えてきます。
おわりに
退職金の準備は、制度選びよりもまず「いつ辞めるか」「辞めた後どう生きたいか」を明確にすることが先決かも知れません。次回以降は、今回整理した考え方をもとに、具体的な退職金の逆算方法や、各制度の特徴についてもいずれ順を追ってご説明していきたいと思っています。
社長も、ご自身の引退時期について、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか?
最後に、最も具体的な問いでありながら、意外と多くの社長が後回しにしがちな問いです。「退職金はいくら欲しいですか」という問いに明確な回答をできる経営者は意外と少ないようです。「老後の生活費として月〇〇万円」「自宅のローンを完済したい」「子や孫に残したい」など、具体的なイメージがあれば、そこから逆算して必要な退職金額を算出することができます。
