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小規模事業者のための退職金制度【第8回】功績倍率法に「法律上の根拠」はない

「功績倍率法だから安全」という誤解

役員退職金の税務上の限度額を計算する際は、「功績倍率法」という方法が一般によく使われます。では、そもそも、その「功績倍率法」とは一体何なのでしょうか?今回はそのことについて詳しくお話をしたいと思います。

功績倍率法は税法のどこにも規定されていない

功績倍率法とは

最終月額報酬×在任年数×功績倍率

という退職金の額を計算するさいに用いられる計算式のことをいいます。

たとえば、退職する役員の最終の月額報酬が50万円、在任年数が35年、功績倍率が3.0だと

50万円×35年×3.0=4千5百万円

までは税務上も費用として認められる―というわけです。功績倍率とは役員がその会社にどれだけ貢献したかを表したもので、一般には社長が2.0~3.0倍、専務・常務で1.5倍~2.5倍などと言われます

しかし、その功績倍率法なるものは、法人税法にも法人税法施行令にも一切書かれていません

役員退職給与について税法が定めているのは、次のような抽象的な基準だけなのです。

役員退職給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金不算入とする(法人税法第34条2項)

「不相当に高額」かどうかは、

①その役員の業務に従事した期間

②退職の事情

③同業種・同規模法人の役員退職給与の支給状況等に照らして判断する(法人税法施行令第70条2号)

ということが書いてあるだけで、「功績倍率を掛け合わせて計算する」といった具体的な計算方法は、法律上どこにも指定されていないのです。

通達の「功績倍率法」の説明は、過大性判定のためのものではない

確かに、法人税基本通達9-2-27の3の(注)には功績倍率法の説明が置かれていますが、結論だけ申し上げると、それは別の規定との関連で語られているにすぎず。功績倍率法こそが「不相当に高額かどうか」を判定するための公式な基準である、と国税庁がお墨付きを与えたものではないのです。

この違いは実務上とても重要です。功績倍率法は、あくまで裁判所が長年の判決の積み重ねの中で「合理的な方法のひとつ」として認めてきたに過ぎず、税法上の絶対的な物差しとして与えられているわけではないのです。功績倍率法以外にも「1年当たり平均額法」など他の計算方法が使われる場面があるのは、こうした位置づけの結果でもあります。

実務で本当に揉めるのは「功績倍率」より「最終報酬月額」

功績倍率法の計算式のうち、多くの方が気にするのは「功績倍率を何倍にするか」ですが、実際の税務調査や裁判で争われるのは、むしろ最終報酬月額がそもそも適正な金額だったかどうかという点です。功績倍率は主観的な要素である一方、最終報酬月額と在任年数は客観的に確認できる数字だからです。

ケース1:退職直前に報酬を引き上げた場合

ある事例では、退職前に役員報酬を段階的に引き上げ、最も高くなった金額を最終報酬月額として退職金を計算したところ、課税庁から「引き上げ後の金額は高すぎるので、引き上げ前の金額で計算すべき」と否認されました。

一方、別の事例では、同じように退職前に報酬を引き上げていたにもかかわらず、「その金額で計算してよい」と認められています。この2つで判断が分かれた理由は、引き上げた後の金額が、その役員の職務内容・会社の収益・使用人の給与水準・同業類似法人の状況などに照らして「合理的な金額」だったかどうかという一点に尽きます。

「〇%以上は上げてはいけない」という数値基準があるわけではありませんが、「退職が見えてから報酬を上げる」という事実そのものが、税務調査で目をつけられやすいポイントであることは間違いありません。

さらに極端な事例として、退任後に報酬を追加支給して月額を大きく引き上げ、高い功績倍率を掛け合わせて多額の退職金を計算したケースでは、裁判所が「その最終報酬月額は、退職給与の算定根拠を整えるために決定されたものにすぎない」と認定し、功績倍率法自体の使用を退け、1年当たり平均額法(同業他社の役員在任1年当たりの退職給与の平均額×在任年数)で計算し直したうえで、支給額の大部分を過大と判断した例もあります。

「退職に向けて計画的に報酬を上げていく」という発想自体が、そのまま税務調査での否認リスクに直結しかねないということです。

ケース2:長期間、使用人兼務役員だった場合

在任期間の大半が使用人兼務役員で、役員としての報酬を受け取っていた期間がごく短かったという場合はどうでしょうか。ある専門家間の相談事例では、在任32年のうち27年間は使用人兼務役員として給与の全額が使用人分、残り5年間だけ役員報酬が支給されていたケースが取り上げられています。

この場合でも、功績倍率法における「最終報酬月額」は、文字どおり退職直前に支給されていた役員報酬の金額でよいという整理が示されています。

使用人兼務役員の「使用人分給与」は税務上の取り扱い上区分されているだけで、法的にはその全額が役員報酬であることに変わりはないためです。ただし、この結論には「その最終報酬月額自体が適正な金額であること」という前提がつきます。低額だった時期が長かったことを理由に、退職直前だけ不自然に報酬を引き上げていれば、それはケース1と同じ問題に発展したでしょう。

ケース3:最終報酬月額が不相当に低い場合

逆に、最終報酬月額が実態よりも著しく低いケースもあります。たとえば社長が病気で急逝し、亡くなる直前に一般的なひな型をもとに退職金規程を作成していたようなケースでは、規程どおりに機械的に計算すると、その社長の功績に見合わない低い金額になってしまうことがあります。

ここで押さえておきたい大前提は

退職金規程は、あってもなくても、役員退職給与の支給自体を妨げるものではない

ということです。規程に定められた計算式は絶対的な縛りではなく、株主総会で改めて金額を決議することも可能なのです。

税務上の考え方としては、最終報酬月額が「不相当に低額」と言える場合には、功績倍率法ではなく

1年当たり平均額法

によって適正額を判断するとされています。この方法は

同業他社の役員在任1年当たりの退職給与の平均額×在任年数

によって適正額を判断するという方法です。

しかし、実務上「同業他社の1年当たり平均額」などは会社側からは知りえないのです。実際には、国税との間で争いになって初めて課税側から数値が示されるものであり、しかも国税不服審判所の審理段階で国税側が選定した比較法人が差し替えられることも珍しくありません。つまり、退職金の額を決める段階では、正確な「正解」は誰にも分からないというのが実情なのです。

こうした不透明さを踏まえ、実務家の中には、規程の計算式にこだわらず、会社の資金繰りや遺族の生活状況などを総合的に考慮して、株主総会議事録には計算根拠を明記せず金額のみを決議するという対応を取る例もあります。

これは否認リスクをゼロにするものではありませんが、「規程どおりに計算した低い金額」に縛られる必要はなく、実質的な判断の余地があることを示す一つの考え方です。

実務上のポイント

・功績倍率法は法律上の規定ではなく、判例の積み重ねで認められてきた「合理的な方法の一つ」に過ぎない

・法人税基本通達9-2-27の3の注は、業績連動給与に該当しないことを確認する趣旨であり、過大性判定の基準として国税庁が功績倍率法にお墨付きを与えたものではない

・争いの中心は功績倍率そのものより、最終報酬月額が「適正な金額」かどうかである

・退職直前の報酬引き上げは、金額の合理性次第で認められることも否認されることもある

・使用人兼務役員だった期間が長くても、最終報酬月額は直近の役員報酬でよいが、その金額自体の適正性が前提となる

・最終報酬月額が不相当に低い場合、退職金規程に縛られる必要はなく、株主総会で改めて金額を決定できる

まとめ

功績倍率法は実務上広く使われていますが、その根拠は「税法の明文規定」ではなく、あくまで判例の積み重ねと実務慣行にあります。計算式そのものより、最終報酬月額という数字がどのような経緯で決まったのか、その金額に合理性があるかどうかこそが、税務調査や裁判で問われる本質的なポイントです。

退職に向けて機械的に報酬を引き上げる、あるいは逆に規程を鵜呑みにして不当に低い金額で確定してしまう、といった対応にはどちらもリスクが伴います。

自社の役員退職金の設計が、最終報酬月額の推移も含めて無理のないものになっているか確認をご希望の方は、個別相談にてご提案いたします。

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