
「運用リスクは従業員が負う」制度だからこそ知っておきたいこと
第2回記事(中退共・企業型DC・企業型DBの比較)で触れたとおり、企業型DCは会社が拠出した掛金を従業員自身が運用する制度です。会社にとっては運用リスクを負わない設計である一方、従業員にとっては「実際どれくらいの利回りが期待できるのか」が老後資金の見通しに直結します。経営者としても、制度を導入・説明する立場として、これまでの運用実績の推移と、今後をどう考えればよいかを押さえておく価値があります。
これまでの運用実績はどう推移してきたか
制度発足からの累積平均利回りは6.9%
企業年金連合会の調査によれば、企業型DC制度が発足した2001年から2023年度末までの累積平均運用利回りは6.9%となっています。
ただし、これは20年以上にわたる運用成果の累積値であり、単年度ごとの利回りとは性質が異なる数字です。
単年度の利回りは市況次第で大きく変動する
同じ調査で、2023年度単年度の平均運用利回りは13.3%でした。この数字だけを見ると高い印象を受けますが、単年度の利回りは株式市場など市況の影響を強く受けるため、良い年もあれば悪い年もあります。
老後資金の見通しを立てる上で参考にすべきは、単年度の数字よりも長期の累積平均の方だといえます。
元本確保型商品からの資金シフトが進んでいる
運営管理機関連絡協議会の統計資料によれば、確定拠出年金全体における元本確保型商品(定期預金・保険など)の比率は、2021年3月末時点で45%程度だったものが、直近では30%程度まで低下しています。
反対に投資信託などの元本変動型商品の比率が高まっており、資産残高ベースでは投資信託が6割を超える水準になっています。
特に若年層で運用の積極化が進んでいる一方、50代・60代では元本確保型の比率が再び高まる傾向も見られ、年齢層による運用姿勢の違いがはっきり表れています。
利回りには個人差が大きい
企業型DC全体の平均利回りは前述の通りですが、加入者一人ひとりの実績にはばらつきがあります。
企業年金連合会の調査では、5〜6%の利回りを達成した加入者の割合が15.8%で最も多いという結果が出ており、多くの加入者がプラスの運用益を確保している一方で、運用商品の選択によって成果に幅が生じていることが分かります。
「想定利回り」という考え方
企業型DCの制度設計では、会社が「想定利回り」という基準値を設定します。
これは、掛金を一定の利回りで運用できたと仮定した場合に、標準的な退職給付水準を実現できるという制度設計上の前提値です。
過去には、確定拠出年金の導入から数年が経過した時点で、実際の運用成績がこの想定利回りを下回る事態がしばしば見られ、継続的な投資教育の重要性が指摘されてきた経緯があります。
想定利回りをどう設定するかは、制度設計時に会社が意識しておくべきポイントの一つです。
今後の利回りをどう見るべきか
将来の運用成績を確実に予測することはできません。ここでは、今後を考える上で押さえておきたい複数の視点を紹介します。
視点1:金利環境の変化が元本確保型商品に与える影響
長らく続いた低金利環境が変化しつつある局面では、定期預金など元本確保型商品の利回りにも変化が生じる可能性があります。ただし、こうした変化が実際にどの程度、どのタイミングで反映されるかは金融政策や市場環境次第であり、一律に予測することは困難です。
視点2:長期・分散・積立という運用の基本は変わらない
短期的な市況の変動を正確に予測することは、専門家であっても難しいとされています。
企業型DCの強みは、毎月一定額を積み立てることで購入タイミングを分散できる「ドルコスト平均法」的な効果と、非課税で長期運用できる税制優遇にあります。
過去の実績がそのまま将来を保証するものではありませんが、短期的な値動きに一喜一憂せず、長期的な視点で分散投資を続けるという基本的な考え方は、今後も運用の土台として意識される可能性が高いといえます。
視点3:年齢層に応じた運用姿勢の見直し
前述の通り、若年層ほど元本変動型商品の比率が高く、退職が近づく年代ほど元本確保型に回帰する傾向が見られます。運用期間が長く残っている加入者はリスクを取った運用の恩恵を受けやすい一方、退職が近い加入者は資産を守る運用へと切り替えていくという、年齢に応じた資産配分の見直し(リバランス)の重要性は、今後も変わらず意識されるべきポイントです。
経営者として意識しておきたいこと
企業型DCを導入する、あるいは既に導入している経営者にとって、運用利回りそのものは従業員各人の選択に委ねられる部分ですが、会社として関与できる領域もあります。
- 運用商品のラインナップを適切に整える — 元本確保型から株式・債券など多様なリスク水準の商品まで、従業員が自分に合った選択をできる商品構成になっているか
- 投資教育を継続的に実施する — 導入時の一度きりの説明で終わらせず、運用状況を踏まえた継続教育の機会を設ける(第2回記事で触れた「実施主体としての会社の責任」にも関わる点です)
- 想定利回りを保守的に設定する — 過度に楽観的な前提を置かず、実現可能性を意識した制度設計を行う
まとめ
- 企業型DC制度発足からの累積平均運用利回りは6.9%(2023年度時点)、単年度の利回りは市況により大きく変動する
- 元本確保型商品から投資信託などへの資金シフトが進んでおり、若年層ほど運用の積極化が顕著
- 加入者ごとの運用成果には個人差があり、5〜6%の利回り達成者が最多という結果が出ている
- 今後の利回りは金利環境の変化などにより影響を受け得るが、長期・分散・積立という運用の基本や、年齢に応じた資産配分の見直しという考え方は引き続き重要
- 経営者としては、商品ラインナップの整備や継続的な投資教育、想定利回りの適切な設定を通じて制度の実効性を高める役割がある
自社の企業型DCの商品構成や投資教育の進め方について確認をご希望の方は、個別相談にてご提案いたします。
本記事の運用利回りに関する内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の運用成果を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行っていただきますようお願いいたします。