
企業型DCは、最初から「ドルコスト平均法」の制度である
前回の記事では、企業型DCの運用利回りの推移と今後の見方を整理しました。その中で「長期・分散・積立」という運用の基本に触れましたが、この「積立」の効果としてよく語られるのがドルコスト平均法です。
企業型DCは、会社が毎月(多くの場合)従業員の口座に掛金を拠出し、それを従業員が運用商品の購入に充てていく制度です。つまり従業員は、意識するしないにかかわらず、毎月一定額を買い付ける運用を自動的に行っていることになります。
ところが、この「ドルコスト平均法」については、「損をしない方法」「必ず有利になる方法」といった誤解も少なくありません。今回は、仕組み、過去データが示すこと、そして企業型DCを考える上でどう捉えるべきかを、順に整理します。
ドルコスト平均法とは何か
ドルコスト平均法とは、価格が変動する金融商品を、毎回一定の金額で定期的に購入し続ける方法です。「金額を固定する」ことがポイントで、価格が高いときには少ない口数、安いときには多くの口数を買うことになります。
簡単な数字の例
毎月3万円ずつ、3か月間、同じ投資信託を買うケースで考えてみます(価格は1口あたりの基準価額とします)。
例1:価格が下がってから戻るケース(V字)
| 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 | 合計 | |
| 価格 | 10,000円 | 5,000円 | 10,000円 | |
| 購入金額 | 3万円 | 3万円 | 3万円 | 9万円 |
| 購入口数 | 3口 | 6口 | 3口 | 12口 |
・平均購入単価:9万円 ÷ 12口 = 7,500円
価格の単純平均は25,000円÷3=約8,333円)
・3か月目の価格10,000円で評価すると
評価額は10,000×12口=12万円、評価益は3万円
・同じ9万円を最初に一括で購入していた場合は、9口を保有して評価額 は9万円のまま、評価益はゼロ
価格が安いときに多く買えるため、購入単価が平均価格より低くなる——これがドルコスト平均法の仕組みです。
例2:価格が上がり続けるケース
| 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 | 合計 | |
| 価格 | 10,000円 | 11,000円 | 12,000円 | |
| 購入金額 | 3万円 | 3万円 | 3万円 | 9万円 |
| 購入口数 | 3口 | 約2.73口 | 2.5口 | 約8.23口 |
・3か月目の価格12,000円で評価すると、評価額は約98,700円、
評価益は約8,700円
・最初に9万円を一括で購入していた場合は、9口を保有して評価額は
10万8,000円、評価益は1万8,000円
つまり、ドルコスト平均法は常に有利になる方法ではありません。値動きの経路によって、一括投資より有利にも不利にもなるのです。
「平均購入単価が下がる」の正しい意味
よく「ドルコスト平均法なら平均購入単価が下がる」と説明されますが、これは購入した価格の単純平均より、実際の平均購入単価が低くなるという意味であり、「損をしない」という意味ではありません。
価格が下がり続ければ評価損は出ますし、価格が上がり続ければ、前述の例2のように、最初にまとめて買った場合より成果が劣ることになります。
過去のデータから何が言えるのか
データ1:一括投資が、約3分の2の確率でドルコスト平均法を上回る
最もよく引用されるのが、米国の運用会社バンガードによる調査です。この調査では、手元にまとまった資金がある状況で、一括で投資する場合と一定期間にわたって分割で投資する場合を、さまざまな期間・ポートフォリオで比較しています。結果として、一括投資が約3分の2の確率でドルコスト平均法(分割投資)を上回ったと報告されています。
理由はシンプルで、株式市場は歴史的に「下落する期間」より「上昇する期間」の方が長いため、資金を現金のまま待機させている期間が長いほど、市場の成長の恩恵を受け損なうからです。バンガードはこの調査で、ドルコスト平均法は「リスクを減らす」というより、リスクを取る時期を後ろにずらしているにすぎないと位置づけています。
データ2:一括が有利になる局面、積立が有利になる局面
過去の相場を見ると、ドルコスト平均法が有利になるか不利になるかは、その後の相場の経路で決まることがわかります。
- 上昇相場が続いた場合(米国のNYダウなど):基本的に上昇基調が続いたため、最初に一括で購入した方が買付単価が低く、一括投資の方が好成績となった
- 下落や低迷が続いた場合(バブル崩壊後の日経平均など):日経平均は1989年の高値以降、34年以上にわたって高値を更新できませんでした。こうした局面では、下落時にも買い続けるドルコスト平均法の方が、一括投資より損失を抑えられる、あるいは成績が良くなる傾向がありました
つまり過去のデータから言えるのは、「ドルコスト平均法が一括投資より優れている」とも「劣っている」とも一概には言えず、将来の値動き次第で結果が変わるということです。
データ3:「積立」の本当の価値は、数字以外の部分にもある
もう一つ、数字の比較だけでは見えにくい論点があります。一括投資は統計的には有利になりやすい一方で、投資直後に相場が急落すれば、含み損が全額に及びます。「あのとき一括で買わなければ」という後悔は、投資を続ける意欲そのものを削いでしまいかねません。
その点、積立は価格の上下に一喜一憂しにくく、感情に左右されずに続けやすいという行動面のメリットがあります。専門家の間でも、数学的には一括投資が有利な場合が多くても、「続けられる方法」の方が最終的に良い結果につながる、という指摘は少なくありません。
企業型DCを考えるにあたり、ドルコスト平均法をどう捉えるべきか
視点1:「一括か分割か」は、DCの毎月の掛金では選択肢にならない
企業型DCの毎月の掛金は、給与とともに毎月発生するものです。まとまった現金を手元に持っていて「一括で入れるか、分割で入れるか」を悩む場面とは違い、そもそも毎月の拠出を一括で前倒しすることはできません(掛金の拠出方法は規約で定められています)。
したがって、バンガードの調査のような「一括 vs 分割」の比較は、毎月の掛金そのものには当てはまりません。企業型DCの毎月の拠出は、「ドルコスト平均法を選んでいる」というより、「給料から毎月積み立てているので、自然とそうなる」と捉える方が実態に近いでしょう。
視点2:ドルコスト平均法は「商品選びの代わり」にはならない
「積立だから安心」と考えて、運用商品の選択を深く検討しないまま放置するのは危険です。ドルコスト平均法は購入のタイミングを分散する方法にすぎず、どの商品を選ぶか、どのくらいリスクを取るか(株式と債券・元本確保型の配分)という、運用成績のより根本的な決定要因を代替するものではありません。値下がりし続ける商品を毎月買い続ければ、ドルコスト平均法を使っていても損失は拡大します。
視点3:積立の効果は「若いうち」ほど大きく、「出口」に近づくほど薄れる
ドルコスト平均法の効果は、積立の初期・中期に特に表れやすいものです。残高が積み上がった積立終盤になると、毎月の新規拠出額が全体の資産に占める割合は小さくなり、すでに積み上がった残高の値動きの影響の方がはるかに大きくなります。
出口付近(退職・受取時期の直前)で相場が大きく下落すると、それまでの積立効果を打ち消してしまうリスクがあります。前回記事でも触れたとおり、年齢が上がるにつれて元本確保型の比率を高めていく(リバランス)という考え方が重要になるのは、このためです。
視点4:すでにある残高の配分変更は、別の問題として考える
たとえば、他の制度から資産を移換してきた場合や、運用商品を入れ替える(スイッチングする)場合には、手元にまとまった残高があります。この場合は、一括で配分を変えるか、数回に分けて少しずつ変えるかという、まさに「一括 vs 分割」の問題が生じます。
バンガードの調査が示すように、統計的には一括の方が有利になりやすいものの、相場急落への不安が強い場合には、あえて数回に分けることで精神的な負担を軽くするという考え方も、実務上は選択肢になります。どちらが「正解」というより、自分のリスク許容度と、続けられる方法を優先して選ぶのが現実的です。
経営者として意識しておきたいこと
従業員への投資教育を行う際、「毎月積み立てれば安心です」という説明に偏らないよう注意が必要です。
- ドルコスト平均法は損失を防ぐ仕組みではないことを、誤解のないように伝える
- 積立の価値は「購入タイミングの分散」と「感情に左右されず続けやすいこと」にあると説明する
- 運用商品の選択・資産配分、そして年齢に応じた見直しが、運用成績をより大きく左右することを併せて伝える
まとめ
- ドルコスト平均法とは、毎回一定金額で定期的に購入する方法で、価格が安いときに多く買えるため平均購入単価が下がる効果がある
- ただし「損をしない方法」ではなく、価格が上がり続ける局面では一括投資に劣ることがある
- バンガードの調査では、一括投資が約3分の2の確率で分割投資を上回ったが、下落・低迷相場では積立が有利になることもあり、結果は相場の経路次第である
- 企業型DCの毎月の掛金は、給与から毎月拠出する仕組み上、自然とドルコスト平均法の形になるため、「一括か分割か」の選択ではない
- 積立の効果は若いうち・中期ほど大きく、出口に近づくほど薄れるため、年齢に応じた資産配分の見直しが重要になる
- 運用商品の選択やリスク水準の決定が、購入タイミングの分散以上に運用成績に影響する
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の運用成果を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行っていただきますようお願いいたします。