
「相場」を公的統計で裏付ける
第1回記事では功績倍率法による役員退職金の試算を、第2回記事では従業員の退職金相場が制度選択によって変わることをお伝えしました。今回は視点を変え、公的統計が示す退職金の実態データを見ていきます。
自社の退職金の水準が全国的に見てどの位置にあるのか、その辺の「相場」の感覚を数字で裏付けるための材料として活用してください。
退職金に関する代表的な3つの統計調査
退職金の統計には複数の種類があり、調査対象や集計方法は以下の様になっています。ぜひ参考になさってください。
| 調査名 | 調査主体 | 調査対象 | 特徴 |
| 就労条件総合調査 | 厚生労働省 | 常用労働者30人以上の全国の民営企業 | 国内最大規模、大企業から中小企業まで幅広くカバー。実際の支給額を集計 |
| 退職金・年金に関する実態調査 | 日本経団連・東京経営者協会 | 会員企業(直近調査で7割超が従業員500人以上) | 大企業中心。新卒入社者のモデル退職金額を集計。2021年調査で終了 |
| 中小企業の賃金・退職金事情 | 東京都産業労働局 | 従業員300人未満の都内中小企業 | 中小企業の代表的な調査。モデル退職金額を集計 |
就労条件総合調査が実際に支給された金額を集計しているのに対し、経団連調査や東京都調査は新卒入社者を想定した標準的なモデル退職金額を集計している点に違いがあります。単純に数字だけを比較するのではなく、この性質の違いを踏まえて読む必要があります。
そもそも「退職金制度がある会社」はどれくらいあるのか
就労条件総合調査(2023年)によれば、退職給付制度がある企業の割合は、企業規模別に次のようになっています。
| 企業規模 | 退職給付制度がある企業の割合 |
| 1,000人以上 | 90.1% |
| 300〜999人 | 88.8% |
| 100〜299人 | 84.7% |
| 30〜99人 | 70.1% |
| 調査計 | 74.9% |
従業員30〜99人規模の中小企業でも、7割が何らかの退職金制度を持っているという結果です。第1回記事で「退職金制度がない場合のリスク」を取り上げましたが、「うちはまだまだそんな規模じゃないから・・・」などとあまり消極的にならず、一度じっくりと「わが社の退職金制度」を考えてみられてはいかがでしょうか。
企業規模によって「選ぶ制度」も違う
興味深いのは、企業規模によって採用されている退職金制度の傾向が大きく異なる点です(退職金制度がある企業のうち、各制度を採用している企業の割合)。
| 企業規模 | 社内準備金 | DB(確定拠出年金) | DC(確定給付年金) | 中退共 |
| 1,000人以上 | 66.9% | 46.0% | 52.5% | — |
| 300〜999人 | 65.3% | 32.3% | 33.9% | 12.2% |
| 100〜299人 | 57.6% | 19.1% | 19.7% | 30.6% |
| 30〜99人 | 46.3% | 8.2% | 10.4% | 45.2% |
大企業ほどDB・DCの採用率が高く、企業規模が小さくなるほど中退共の採用率が高くなる、はっきりとした傾向が見て取れます。第2回記事でお伝えした「会社規模に応じた制度選び」が、統計上も裏付けられていることがわかります。
支給額の規模間格差 — 大企業と中小企業でどれだけ違うか
退職金の「金額」そのものにも、企業規模による差が表れます。経団連調査(大企業中心、2021年)と東京都調査(中小企業、2024年)の、大学卒・定年(会社都合)退職のモデル退職金額を比較すると次のようになります。
| 勤続年数 | 大企業(経団連調査) | 中小企業(東京都調査) |
| 10年 | 288.6万円 | 144.8万円 |
| 20年 | 822.3万円 | 408.1万円 |
| 30年 | 1,649.1万円 | 776.2万円 |
| 定年(38年) | 2,243.3万円 | 1,149.5万円 |
勤続年数にかかわらず、おおむね大企業は中小企業の2倍近い水準で推移していることが分かります。「勤続1年あたり」で単純計算すると、大企業は年60万円程度、中小企業は年30万円程度という目安になります。
自社の退職金水準を考える際、「大企業並み」を目指すことはむずかしくても、この違いを知っておくことは、採用市場での立ち位置を考える上で参考になるのではないでしょうか。
退職事由による違い — 「早期優遇」が最も手厚い
就労条件総合調査(2023年)では、退職事由別の平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者、大学・大学院卒)も示されています。
| 退職事由 | 平均退職給付額 |
| 定年 | 1,896万円 |
| 会社都合 | 1,738万円 |
| 自己都合 | 1,441万円 |
| 早期優遇 | 2,266万円 |
上記4つの中では、早期優遇退職が最も支給水準が高くなっています。会社主導で早期退職を募る場合、通常の定年退職よりも手厚い上乗せを行うのが一般的な実務だということが分かります。第3回記事で「退職の時期」について取り上げましたが、早期退職の制度設計を検討する際は、この水準を一つの目安にできます。
業種によっても大きなばらつきがある
退職金の水準は業種によっても差があります。中小企業を対象とした調査(業種別集計)では、たとえば生活関連サービス業・娯楽業で846.9万円、教育・学習支援業で1,244.9万円、医療・福祉で342.4万円、その他サービス業で904.4万円という結果が出ており、業種によって3倍以上の開きがあることが分かります。
自社の業種における相場を把握せずに、全産業平均だけを参考にしてしまうと、実態とかけ離れた水準を設定してしまうリスクがあります。
自社の数字をどう位置づけるか
ここまで見てきた統計データを、自社の退職金水準を考える際の「地図」として使うなら、次のような視点が有効です。
- 自社の企業規模に近い区分のデータと比較する — 大企業の水準をそのまま目標にする必要はなく、同規模の中小企業がどの程度の水準かを基準にする
- 自社の業種のデータがあれば優先的に参照する — 業種による差が大きいため、全産業平均より業種別データの方が実態に近い
- 「制度のある会社の7割超」という水準を意識する — 退職金制度の有無自体が、採用市場での比較対象になりつつある
まとめ
- 退職給付制度がある企業の割合は、企業規模30〜99人でも7割を超える水準にある
- 企業規模が大きいほどDB・DCの採用率が高く、小さいほど中退共の採用率が高いという傾向が統計上も裏付けられている
- 支給額は大企業が中小企業のおおむね2倍の水準で推移している
- 退職事由別では早期優遇が最も支給水準が高く、業種別では3倍以上の開きが見られる
自社の企業規模・業種に照らして、退職金水準が市場感と乖離していないか確認をご希望の方は、個別相談にてご提案いたします。